根っ株について


根ッ株とは、樹の株のこと。

北海道の支笏湖畔の森で、ある大きな株に出会いました。
 暗い森の中、一筋の木漏れ日に向かって歩いてゆくと、光は大きな株の上の小さなドングリの木を照らしていました。
朽ちた株に張り付いたコケは、水をたっぷり含み、そこで小さなキノコや虫達が育まれていました。

大木がひとつの大きな命を終え、今度は小さな命たちを育てるゆりかごに。
株は、樹がそこに生きてきた証であり、何かをいつも語りかけてきます。
勇気づけられたり、自分の傲慢さを教えてくれたり。
ずっと森に立ち続けているその存在が、気になってしかたがなくなりました。


 

キャンプ場アトリエ

 

ある4年間、夏の間はずっと支笏湖のキャンプ場で、テントやトレーラーをアトリエに制作を続けました。
私の絵には、いきものたちがよく登場します。
根っ株は、動物たちに家や食糧の貯蔵庫として、あるいは身を隠す場所などとして提供します。
株の周りの世界で、命は失われたり新たに立ち上がったり、形を変えながらいつも一生懸命です。

ヒグマの危険や自然の厳しさが隣り合わせの森で、根っ株や倒木の中に見つけたささやかな安らぎ。

厳しくも優しい根っ株のおっかけがはじまりました。

 

巨木の圧倒的な存在。いにしえの時代より、樹から自分たち人類は、火・食料・道具など、生きるすべてを養ってもらい生かさせていただいてきました。朽ちて根っ株になり、森の土になるまでの悠久の歳月、新しい植物や昆虫などの命を育てていくことを思うと、気が遠くなるような太古から地球を支えてきた樹は、人間にとっての生命の乳母のような特別な存在だいう記憶を呼び起こしてくれます。

 


小島加奈子